2019.07.18

【BtoB-toS】社会課題は顧客課題のすぐ後ろ 〜マーケ再考〜

SDGsやESG、CSV、ソーシャルイノベーション……。地球環境や経済・社会の持続可能性に関する世界的な危機意識や過度な資本主義への懐疑性から、売り手企業の事業活動に「社会性」が一層求められる時代となりました。

人々の基本ニーズを満たすサステナブル(持続的)でインクルーシブな(包摂的な=排除されない)経済の構築へと向かう世界的な潮流から、昨今ではBtoBにおいても環境保全や社会課題解決への取り組みを取引先選定の要件とする買い手は少なくありません。
買い手はよりよいプロダクトだけでなく、よりよい世界を求めています。

本コラムでは、BtoB取引(SaaS)の背後にある下記3つのポイントを通して、売り手の「社会性」が購買意思決定に与える影響とマーケティングにおける潜在的な未開発の機会を考えます。

・購買動機は論理や客観に限定されない。マーケの焦点は“人”へと回帰する
・社会性は「ノミネート効果」「確信効果」の両面に影響大、その傾向は大手ほど顕著
・マーケティング本来の役割に立ち返り、ブランドの価値と文脈をデザインする

購買動機は論理や客観に限定されない。マーケの焦点は“人”へと回帰する

”BtoCとは違って感覚的な選択が許されず、厳しいコスト管理が行われるBtoBだからこそ、徹底した客観的・合理的な評価基準に基づいて意思決定が下される。そのため、情緒的な価値(心理的要素)が入り込む余地はない──”

現在Web状では、上記のような文脈により、BtoBとBtoCのマーケティングの違い、およびそれぞれの買い手の特長を説明した何万もの記事が見つかります。私たちが、BtoBのマーケティグを考えるときは、買い手の購買の動機は常に合理的で論理的なもの、と思い込みがちです。そして、買い手の組織内で必然的に対人的で感情的な力が働くことを、ややもすると忘れがちです。

しかし、実際には購買検討プロセスにおけるその全てが、合理的・客観的な理由だけで進められているわけではありません。無意識のうちにバイアスがかかるもの。プライベートな買い物ほどではないにしろ、購買関与者は少なからず感情的(エモーショナル)な影響を受けているのが実態です。

これを考える上で一定の参考になるのが、以下の「BtoB SaaS 買い手の琴線」(自主調査レポート)に収録している、「所属する企業で、過去2年以内にSaaS選定の選定・購買の意思決定に関与した方」(444名)から回答を得た調査結果です。

調査は、購買検討プロセスと継続契約に影響を与える要因を明らかにすることを目的に実施しました。対象者に「どのような評価基準で検討したか」と質問したところ、実に60.8%が、「売り手企業への主観的・感情的な評価が購買検討に少なからず影響した」と答える結果となりました。

「BtoB SaaS 買い手の琴線 〜価値観フィットが急所〜」より抜粋
ジャストクリエイティブ調べ

また「なぜ購買検討に“感情”が影響したのか」という問いには、「価値観やカルチャーが自社にフィットする売り手を選ぶため」(55.2%)が最多、次いで「導入後に問題が生じた時、誠実な対応を期待できる売り手企業を選ぶため」(51.1%)が多くの回答を集めました。「環境活動や社会活動、慈善活動といった観点でも売り手を評価するため」の項目には46.7%の回答が得られています。
なお、売り手の「社会性」を評価する傾向に関して、今後購買活動の中心となるミレニアル世代(本調査では、1981年〜1996年3月以前に生まれた層と定義)に絞って集計した場合では5.1pt高まり、51.8%に昇ります。

「BtoB SaaS 買い手の琴線 〜価値観フィットが急所〜」より抜粋
ジャストクリエイティブ調べ

さらに同調査では、購買検討に伴う個人的なリスクについて購買関与者の6割が、1)社内での信用、2)時間・労力の浪費、3)キャリアへの影響を考慮する、と答えており、これら個人的なリスクを考慮する購買関与者ほど、検討の際に主観的・感情的な手がかりに依存する傾向が強いことが明らかになっています。

「BtoB SaaS 買い手の琴線 〜価値観フィットが急所〜」より抜粋
ジャストクリエイティブ調べ

つまり、プロダクトやサービスを購買するのは「組織」と呼ばれる複雑なエンティティであるからこそ、意思決定における決定的なポイントは客観性や合理性、あるいは論理のみに限定されないということです。

組織とは、私やあなたのような理性と感情を備え、個人的なリスクを考慮する人間の集まりで構成されており、個人の感情的(エモーショナル)な側面からも評価を行う買い手は、売り手にもまた「人間性」を期待しています。

そして、彼らは利益のみを追求する売り手ではなく、信念や価値観が自分たちと一致する企業、信頼できる倫理的な企業かどうか、を感情の側面からも売り手をジャッジします。
これにより、購買の意思決定や検討に係る個人的なリスクを排除し、「安心」を得て一緒に未来に向けてストーリーを紡いでいける売り手と取引したいと考えている──…と調査レポートでは結論付けました。
※詳しくは、調査レポートをダウンロードしてください。

なお、今年の5月にサンフランシスコで開催されたカスタマーサクセスの世界的なカンファレンス「Pulse2019」では、人間的な価値を中心とした「Human First」が標語になっていたようです。BtoBのマーケティングにおいても買い手を“人”として捉えエモーショナルな部分に踏み込んでいくべき必然性は、シリコンバレーに本社を置くソーシャルメディア・マーケティング・エージェンシーのCEO、Bryan Kramer(ブライアン・クレイマー)氏が提唱する「B2BもB2Cも存在しない、Human to Human(H2H)」をはじめ、米国では既に(2014年頃から)多くの識者によって議論がなされています。

購買意思決定に係る合理と感情の関係性、そこへのアプローチに関する作用機序についてはまだ完全には解明されていませんが、「人間的なアプローチ」を通じてビジネスを成功に導く考え方に関して、今後必然的に国内でも議論が活発になることが予想されます。

社会性は「ノミネート効果」「確信効果」の両面に影響大、その傾向は大手ほど顕著

見込客が売り手と長期的な関係を築く前に、それが信頼できる企業であることを知りたいと思うのは、当然の心理です。 その購買が周囲の世界に与える影響を考慮されるとともに、売り手の信念と価値観がますます重要になっています。そして、売り手の社会的イメージは、購買検討に際して「ノミネート効果」「確信効果」の両面に一定の作用をもたらすことが同調査により明らかになりました。

「BtoB SaaS 買い手の琴線 〜価値観フィットが急所〜」未掲載データ
ジャストクリエイティブ調べ

ノミネート効果について、買い手は案件化後に候補業者を選定する際、期待感情の高い売り手に提案依頼を行いますが、そこで事業の意義や使命、社会的影響力が理解されている売り手の方が候補業者の枠に入りやすくなることは想像に難しくありません。事実、「購買先の候補として検討したいと思う企業は?」の問いに「本業を通じた社会課題への貢献」(38.4%)が15項目中2番目に多い回答を集めています。

取引先選定時では、買い手は売り手の提案内容をはじめ、あらかじめ社内で合意された評価基準に従って客観的に評価されます。その際には売り手に抱いているイメージや印象とともに、その提案が確実に遵守されると確信でき、安心できるかどうかもあわせて検討されます。社会的に期待されている企業からの提案の方が決裁されやすいことは各識者が指摘するところです。
実際、「営業・提案により抱いた事前期待値が確実に達せられると思える企業は?」の問いにおいても、「本業を通じた社会課題への貢献」(33.3%)が15項目中2番目に多い回答を集める結果になりました。

また、この調査結果を企業規模別でクロス集計したところ、企業規模が大きくなるほど「ノミネート効果」「確信効果」の両面において、売り手の「本業を通じた社会課題への貢献」に関するイメージが、購買関与者に作用する傾向にあることがわかっています。
BtoBの取引では、大型案件になればなるほど「稟議を決裁する承認者」は仕様以上に信頼や安心感を求めることも見逃せません。プロダクトが属する分野に十分な知識を持っていない経営陣などが稟議に関わる場合、企業へのイメージや印象、連想、威信、信頼といった主観的な属性に位置する情報に依存するためです。

マーケティング本来の役割に立ち返り、ブランドの価値と文脈をデザインする

ここまでを踏まえて、考えたいことが2つあります。

ひとつは、改めてマーケティング戦略の位置づけです。商材の性質や市場環境によってマーケティング部門の位置づけは異なる面もありますが、マーケティング戦略が目指すところは、企業によって変わるものでないということです。マーケティングとは顧客を創造し、維持し続けること。中長期の視点に立って、売れるための仕組みをつくること。突き詰めると、強いブランドづくりがマーケティングの目標であり、存在意義です。ブランドが強ければ、コモディティ化の罠や価格競争を回避することもできます。

前述の視点に立った上で考えたい2つ目が、マーケティングにおいてBtoS(Social)の視点を持つ必要性です。
BtoBの取引は、担当者と決裁者、あるいは購買担当者など複数のステークホルダーによって検討され、より集団的・社会的な意思決定がなされます。「企業は社会の公器である」は松下幸之助が残した有名な言葉ですが、企業に属す購買関与者が社会的な影響を受けている限り、プロダクトや事業を通して実現したいパーパス(社会的な存在意義・目的)をコンテキスト(文脈)に埋め込み、買い手と共有すべき意義を否定することはできません。

実際、「その企業の思想や価値観に共感しているか」という質問に対し、「共感している」と回答した層は、「共感していない」と回答した層に比べて継続利用意向は58.8pt高く、他企業への推奨意向も46.0pt高いことがわかりました。 この点から、売り手企業は買い手に応じて自社の思想や価値観を適切に共有することで、チャーンの抑制や契約継続率の向上、他企業への推奨による新規顧客の獲得機会の増加を期待できることが考えられます。

「BtoB SaaS 買い手の琴線 〜価値観フィットが急所〜」より抜粋
ジャストクリエイティブ調べ

なお、複数のターゲット層に対応する必要がある場合、それぞれの課題を解決するためのメッセージを抽出し、それに沿った情報発信を行うことが基本ですが、それらのメッセージをある程度、同期させておくことを念頭に置くべきです。ブランドのコアとなる情報価値を常に意識し、その枠内でどのようなポイントの訴求に力点を置くか、あるいは付加的に強調するかを考えながら、個別のターゲットに対するメッセージを策定することが肝要になります。
これらを踏まえ、「顧客価値創造=社会的価値」という図式のアプローチをとることで、買い手の思いを一段と強いものにすることができると考えられます。

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※当該コラムの無断転用・転載等はご遠慮ください。
※当該コラムに含まれる調査結果を引用される際は、「ジャストクリエイティブ調べ」を明記してくださいますようお願いいたします。
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